「世界の破滅とか?」
2012/05/13/Sun
構造主義文化人類学の祖、レヴィ=ストロースは「アームチェア人類学者」などと揶揄されていた。実際はフィールドワークもしていたのだが、神話研究に注力していた時期の印象からそう言われたのだろう。
構造主義を標榜するある人類学の学者も、フィールドワークを重視していた。大学の同僚からは「しがらみから逃げるためにフィールドワークやってるんだろう」などと冗談を言われるほどだったが、彼自身そういうところはあると思ってはいたので、
「いやほんとそうなんだよ、めんどくさいよな」
などと返すこともあった。
そんな彼が高校時代の同窓会に出席した。
自分が今している仕事の話をすると、なぜかインディ・ジョーンズの話になってしまい、いささか困ってしまったが、酒の席のバカ話として彼も会話を楽しんでいた。
「お宝とか見つけたことあるのか?」
お宝、お宝か。
適当に生返事したものの、酔っていたせいか、「自分にとってのお宝とは」などと学者らしくもないことを考える。
アルコールの入った会話は、自分の話など半分にしか聞かれず、インディ・ジョーンズ的な、ロマンと冒険の話が中心となっていた。それはやがて高校時代のちょっとしたいたずらや若気の至りの話と変化していった。
高校時代の彼らは、当時大人から「無気力世代」などと言われていたのだが、無気力ではなかったよな、と彼は思う。
ロマンや冒険をこれ見よがしにやると同年代からもうざがられるので、こそこそとタバコを吸うなど小さな非行を、大人にばれないようにうまくやっていただけ。
(無気力というより狡猾だったんだな)
そんな風に一人考えていると、酔っ払いの会話は自分の方に戻っていた。
もちろん友人たちは彼がインディ・ジョーンズではないと知っていたが、彼にそういった役割を期待しているのだった。酒の勢いで。彼はそれを避けるかのように言った。
「宝ってなんだろうな」
インディ役にこんなセリフは似あわない。だが友人たちは彼がインディではないと知っていたので、落胆などせず、「自分らにとってお宝ってなんだろう」という話になった。
「やっぱ家族とかになっちゃうよなー」
「バカ言え、二十年経ってもこうやって集まれるお前らが宝だよ(わざとらしく)」
「ウハハ」
「で、インディにとってのお宝ってなんだ?」
この友人はおそらく、そこにいる人類学者はインディではないが、高校時代の同級生としての彼の宝を聞いたつもりだったのだろう。
彼は真面目に考えていた。自分にとってお宝とは。「構造」だ。全人類に共通なある「構造」を捜し求めている。しかしそれを見つけることは、その人々にとってそれを壊されることになりかねない……。
なのでぽろっとこんなことを言ってしまった。
「世界の破滅とか?」
場は静まり返った。
人類学者は気を取り直して補注する。
「いやその、たとえば、そう、パンドラの箱とかそういうものだろ」
質問した、少しばかり彼にインディを期待していた友人がこうフォローする。
「あれか、要するに世界をひっくり返すような大発見がお宝ってことか?」
友人たちは笑う。彼がインディ役をこなしてくれたから。
「いいなあお前は」
その中の誰かが言う。おそらく心の底から言った言葉だろう。
一方、インディではない人類学者は、少し違うとは思いながらも、少しは当たっているとも思ったので、友人たちと笑った。
構造主義を標榜するある人類学の学者も、フィールドワークを重視していた。大学の同僚からは「しがらみから逃げるためにフィールドワークやってるんだろう」などと冗談を言われるほどだったが、彼自身そういうところはあると思ってはいたので、
「いやほんとそうなんだよ、めんどくさいよな」
などと返すこともあった。
そんな彼が高校時代の同窓会に出席した。
自分が今している仕事の話をすると、なぜかインディ・ジョーンズの話になってしまい、いささか困ってしまったが、酒の席のバカ話として彼も会話を楽しんでいた。
「お宝とか見つけたことあるのか?」
お宝、お宝か。
適当に生返事したものの、酔っていたせいか、「自分にとってのお宝とは」などと学者らしくもないことを考える。
アルコールの入った会話は、自分の話など半分にしか聞かれず、インディ・ジョーンズ的な、ロマンと冒険の話が中心となっていた。それはやがて高校時代のちょっとしたいたずらや若気の至りの話と変化していった。
高校時代の彼らは、当時大人から「無気力世代」などと言われていたのだが、無気力ではなかったよな、と彼は思う。
ロマンや冒険をこれ見よがしにやると同年代からもうざがられるので、こそこそとタバコを吸うなど小さな非行を、大人にばれないようにうまくやっていただけ。
(無気力というより狡猾だったんだな)
そんな風に一人考えていると、酔っ払いの会話は自分の方に戻っていた。
もちろん友人たちは彼がインディ・ジョーンズではないと知っていたが、彼にそういった役割を期待しているのだった。酒の勢いで。彼はそれを避けるかのように言った。
「宝ってなんだろうな」
インディ役にこんなセリフは似あわない。だが友人たちは彼がインディではないと知っていたので、落胆などせず、「自分らにとってお宝ってなんだろう」という話になった。
「やっぱ家族とかになっちゃうよなー」
「バカ言え、二十年経ってもこうやって集まれるお前らが宝だよ(わざとらしく)」
「ウハハ」
「で、インディにとってのお宝ってなんだ?」
この友人はおそらく、そこにいる人類学者はインディではないが、高校時代の同級生としての彼の宝を聞いたつもりだったのだろう。
彼は真面目に考えていた。自分にとってお宝とは。「構造」だ。全人類に共通なある「構造」を捜し求めている。しかしそれを見つけることは、その人々にとってそれを壊されることになりかねない……。
なのでぽろっとこんなことを言ってしまった。
「世界の破滅とか?」
場は静まり返った。
人類学者は気を取り直して補注する。
「いやその、たとえば、そう、パンドラの箱とかそういうものだろ」
質問した、少しばかり彼にインディを期待していた友人がこうフォローする。
「あれか、要するに世界をひっくり返すような大発見がお宝ってことか?」
友人たちは笑う。彼がインディ役をこなしてくれたから。
「いいなあお前は」
その中の誰かが言う。おそらく心の底から言った言葉だろう。
一方、インディではない人類学者は、少し違うとは思いながらも、少しは当たっているとも思ったので、友人たちと笑った。
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