ホットミルクの膜
2008/05/16/Fri
どうすればいいんだろう。
煙草に火つける。火がついた煙草は増殖する。ねずみ花火みたいににょろにょろと、時には分岐して、火がついたままの煙草が増殖する。
わたしがそれを吸うと、部屋中に張りめぐらされた煙草の毛細血管が破裂する。破裂は連鎖する。
花火の中にいるみたい。火花は網を焼く。網の向こうにコンビニが見える。病院が見える。噴水が見える。見えるのにとても遠い。コンビニか病院か噴水かどれだか忘れたけどそれらの方向に歩いているのに、全然辿り着かない。もうかれこれ四ヶ月ほど歩いている。
周りでは、お腹がぽっこり膨らんだ、手足の細い、飢餓状態のような子供たちが、血や泥に塗れた子供たちが、ケンカしている。負けた方は食べられるのだろうか。じゃれ合っているようにも見える。だけどわたしが近づいたらみんな逃げてしまうので、よくわからない。それに、彼らがいた場所はとてもアンモニア臭い。気持ち悪くなる。
振り返る。学校への通学路。そうそう、落とし穴がたくさん仕掛けられた通学路。校庭。サッカーのゴール。網が張られてる。ゴールだけじゃない。地面も網だった。校舎も網でできていた。
わたしの目の前には、固い金網が広がっていた。
ポケットを探る。マイセンライト。一本だけ残っていた。だけどライターがなかった。
仕方ないので、帰ろうと思った。思ってから気づいた。
ここは、どこだろう。
わたしは、六百四十三階建てのマンションの十五階に住んでいて、いつもと違うエレベーターで、螺旋を描いて降りていったのだけど、エレベーターは螺旋階段から落ちてしまって、わたしは徒歩で階段を降りていた。爪を削りながら。お風呂上りだったのかもしれない。
空から、ごろごろという音が降る。雨が降るのかもしれない。洗濯物どうしよう。
天を仰ぐと、無数のスーパーボールが振ってきた。無数の色の無数の大きさのスーパーボールが振ってきて、わたしの周りで跳ねた。
ああ、今日も外に出られない、と思った。
最近馴れ馴れしくなって、嫌いじゃないのに嫌いになってしまいそうな、ある友人からの誘いを、そう言って断った。断るなら、理由は正直に言った方がいいと思った。
人形を着て人に会うと、他人は人形に見える。そのままのわたしを見せると、わたしがもっとも嫌悪するそのままのわたしが押しつけられる。
好きか嫌いかは、その時の気分による。人形には、そんなちっぽけな現実が許されない。わたしも好きか嫌いかわかった方がいいから、人形を着る。他人も人形。
人形の陰から、そのままのわたしは、人形の壊れているところを探す。探してしまう。
そこには、大抵、金網がある。金網越しに、網でできた世界が見える。
生産や創造なんて言葉は嫌いだ。硫酸の糞尿の血肉の泉から、ただ足を引き抜くだけのことに、そんな意味をつけられたくない。
スケートは苦手だった。手すりにつかまりながら、煙草に火をつける。見つかったら怒られるのは知っている。だけど、今から落とすこの灰が、もしリンクにちっちゃい穴を開けられたら、そんな妄想のためだけに、煙草に火をつける。
さて、帰ろう。ホットミルク飲みたい。
一億日かかっても帰れない、どこかへ帰ろう。
煙草に火つける。火がついた煙草は増殖する。ねずみ花火みたいににょろにょろと、時には分岐して、火がついたままの煙草が増殖する。
わたしがそれを吸うと、部屋中に張りめぐらされた煙草の毛細血管が破裂する。破裂は連鎖する。
花火の中にいるみたい。火花は網を焼く。網の向こうにコンビニが見える。病院が見える。噴水が見える。見えるのにとても遠い。コンビニか病院か噴水かどれだか忘れたけどそれらの方向に歩いているのに、全然辿り着かない。もうかれこれ四ヶ月ほど歩いている。
周りでは、お腹がぽっこり膨らんだ、手足の細い、飢餓状態のような子供たちが、血や泥に塗れた子供たちが、ケンカしている。負けた方は食べられるのだろうか。じゃれ合っているようにも見える。だけどわたしが近づいたらみんな逃げてしまうので、よくわからない。それに、彼らがいた場所はとてもアンモニア臭い。気持ち悪くなる。
振り返る。学校への通学路。そうそう、落とし穴がたくさん仕掛けられた通学路。校庭。サッカーのゴール。網が張られてる。ゴールだけじゃない。地面も網だった。校舎も網でできていた。
わたしの目の前には、固い金網が広がっていた。
ポケットを探る。マイセンライト。一本だけ残っていた。だけどライターがなかった。
仕方ないので、帰ろうと思った。思ってから気づいた。
ここは、どこだろう。
わたしは、六百四十三階建てのマンションの十五階に住んでいて、いつもと違うエレベーターで、螺旋を描いて降りていったのだけど、エレベーターは螺旋階段から落ちてしまって、わたしは徒歩で階段を降りていた。爪を削りながら。お風呂上りだったのかもしれない。
空から、ごろごろという音が降る。雨が降るのかもしれない。洗濯物どうしよう。
天を仰ぐと、無数のスーパーボールが振ってきた。無数の色の無数の大きさのスーパーボールが振ってきて、わたしの周りで跳ねた。
ああ、今日も外に出られない、と思った。
最近馴れ馴れしくなって、嫌いじゃないのに嫌いになってしまいそうな、ある友人からの誘いを、そう言って断った。断るなら、理由は正直に言った方がいいと思った。
人形を着て人に会うと、他人は人形に見える。そのままのわたしを見せると、わたしがもっとも嫌悪するそのままのわたしが押しつけられる。
好きか嫌いかは、その時の気分による。人形には、そんなちっぽけな現実が許されない。わたしも好きか嫌いかわかった方がいいから、人形を着る。他人も人形。
人形の陰から、そのままのわたしは、人形の壊れているところを探す。探してしまう。
そこには、大抵、金網がある。金網越しに、網でできた世界が見える。
生産や創造なんて言葉は嫌いだ。硫酸の糞尿の血肉の泉から、ただ足を引き抜くだけのことに、そんな意味をつけられたくない。
スケートは苦手だった。手すりにつかまりながら、煙草に火をつける。見つかったら怒られるのは知っている。だけど、今から落とすこの灰が、もしリンクにちっちゃい穴を開けられたら、そんな妄想のためだけに、煙草に火をつける。
さて、帰ろう。ホットミルク飲みたい。
一億日かかっても帰れない、どこかへ帰ろう。