土砂降り
2008/05/17/Sat
とつとつと針が降る。ぴすぴすと針が刺さる。
ボクは傘を貸したがっている。だけど、針に打たれ、血塗れになるキミの姿も見たがっている。そもそもこんな傘じゃ、針から身を守れない。それほど針は降っている。土砂降りだった。
だけど、傘を持ったまま、玄関に立っているのは不自然な気がしたので、傘を下駄箱の横にある傘立てに隠した。隠してから戻ると、キミはいなかった。血の跡もなかった。針は降り続けている。キミは針に打たれながら帰ったのだろうか、と思う。キミの血は無色透明だから、血の跡が残っていないのだろうか、と思う。
隠した傘を取りに戻った。ボクの傘じゃなかった。最初から知っていた。
キミの血の色を知っているのは、ボクだけだと思うと、傘を折りたくなった。下駄箱に叩きつけて、折ってやった。
何故キミの無色透明な血は、女性という殻を纏っているのだろう。何故キミの言葉は、女性という腐臭に塗れているのだろう。何故キミという女性は、ボクの血を見てくれないのだろう。ボクはボク自身を好きで嫌いだ。殻も中身も好きで嫌いだ。だから殻じゃなく、せめて血を見て欲しいのに。欲しかったのに。
今日、ボクは、自分の血すらも嫌いになった。キミの血は、ボクと違う色であることを知ったから。
あの、校庭の水溜りが、キミかもしれない。濁っている。キミの血も、いずれ濁ってしまうなら、……と思うと、涙が出そうになる。涙は、濁っていないからダメだ。こんなんじゃダメだ。
ボクは、折れた傘の骨を握っていた。ボクの目を潰すために。
痛いのは嫌いだ。気がおかしくなりそうなほど嫌いだ。だから目を潰すことなんてできるわけがなかった。
ボクはキミを見ないようになった。元々話す回数なんて少なかったけど、それさえもボクは避けるようになった。
キミの血の色を知ってから、ボクの鼻は敏感になった。キミの口臭が、体臭が、言動全てが、獣臭く感じられるようになった。無色透明な血が、キミが食べるもの飲むもの吸い込むものと混じり合い、腐っていく過程を、ボクは想像した。この想像が正しいならば、キミは、キミの本性を腐らせる殻を、今ただちに嫌いにならなければならない。
なのにキミは、その殻を自分で愛撫する。豆腐を扱うがごとく、恐る恐る愛撫する。
こんな臭いものを、何故キミは愛撫できるのか。マスターベーションのようじゃないか。だからなおさら臭くなるのだ。
昨日の土砂降りが嘘のように晴れていた。空気は澄んでいた。ボクはじかに太陽光に炙られている。
濁った水溜りに閉じ込められたボクは、後はただ、渇いていくだけだった。
ボクは傘を貸したがっている。だけど、針に打たれ、血塗れになるキミの姿も見たがっている。そもそもこんな傘じゃ、針から身を守れない。それほど針は降っている。土砂降りだった。
だけど、傘を持ったまま、玄関に立っているのは不自然な気がしたので、傘を下駄箱の横にある傘立てに隠した。隠してから戻ると、キミはいなかった。血の跡もなかった。針は降り続けている。キミは針に打たれながら帰ったのだろうか、と思う。キミの血は無色透明だから、血の跡が残っていないのだろうか、と思う。
隠した傘を取りに戻った。ボクの傘じゃなかった。最初から知っていた。
キミの血の色を知っているのは、ボクだけだと思うと、傘を折りたくなった。下駄箱に叩きつけて、折ってやった。
何故キミの無色透明な血は、女性という殻を纏っているのだろう。何故キミの言葉は、女性という腐臭に塗れているのだろう。何故キミという女性は、ボクの血を見てくれないのだろう。ボクはボク自身を好きで嫌いだ。殻も中身も好きで嫌いだ。だから殻じゃなく、せめて血を見て欲しいのに。欲しかったのに。
今日、ボクは、自分の血すらも嫌いになった。キミの血は、ボクと違う色であることを知ったから。
あの、校庭の水溜りが、キミかもしれない。濁っている。キミの血も、いずれ濁ってしまうなら、……と思うと、涙が出そうになる。涙は、濁っていないからダメだ。こんなんじゃダメだ。
ボクは、折れた傘の骨を握っていた。ボクの目を潰すために。
痛いのは嫌いだ。気がおかしくなりそうなほど嫌いだ。だから目を潰すことなんてできるわけがなかった。
ボクはキミを見ないようになった。元々話す回数なんて少なかったけど、それさえもボクは避けるようになった。
キミの血の色を知ってから、ボクの鼻は敏感になった。キミの口臭が、体臭が、言動全てが、獣臭く感じられるようになった。無色透明な血が、キミが食べるもの飲むもの吸い込むものと混じり合い、腐っていく過程を、ボクは想像した。この想像が正しいならば、キミは、キミの本性を腐らせる殻を、今ただちに嫌いにならなければならない。
なのにキミは、その殻を自分で愛撫する。豆腐を扱うがごとく、恐る恐る愛撫する。
こんな臭いものを、何故キミは愛撫できるのか。マスターベーションのようじゃないか。だからなおさら臭くなるのだ。
昨日の土砂降りが嘘のように晴れていた。空気は澄んでいた。ボクはじかに太陽光に炙られている。
濁った水溜りに閉じ込められたボクは、後はただ、渇いていくだけだった。


