物語
2009/03/04/Wed
少年が小石を踏み潰している。
小石が地面に埋もれていく。
一心不乱に埋めている。
二度と地表に出て来れなくさせようとしている。
少女が紙飛行機を折っている。
紙には彼女の書いた物語が綴られている。
少女はそれを飛ばせなかった。
自分は空に戻れないことを知っていたから。
僕はあなたじゃない。
少年が吐き捨てる。
僕は誰かじゃない。
言葉を踏み潰す。
あたしは悪くない。
少女が吐き捨てる。
あたしは嘘つきじゃない。
言葉を折り畳む。
少年の愛した女教師は殺された。
少年の手で殺された。
殺された女教師は何事もなかったかのように新しい生徒たちを愛していた。
僕はあなたじゃない。
僕は誰かじゃない。
少年は女教師の遺骨を埋めている。
少年の呪いはどこにも届かず空に蒸発する。
もし少女が物語を空に帰していたら、女教師は新しい生徒の誰かを殺したかもしれない。
あなたは彼じゃない。
物語のヒロインはそう吐き捨てる。
少女は物語の存在すら忘れて映画を見入っていた。
きれいに生きるってどんなんだろうねえ。
よくわかんねえや。
教えてもらったきれいならわかるのに、きれいと思えない。
物語を生きれば、きれいとまでは言われなくても、唾吐かれなくて済んだかもねえ。
あたしの子供は空に帰しちまったよ。
マリア様と逆だわな。
干からびたミミズのように生きてきたんだよ。
湿気を求めて這いずり回ってさ。
泥水だろうがションベンだろうが関係ないさ、ミミズなんだもん。
潤いのある暮らしって奴だ。
物なんて言い様だからねえ。
ションベンに塗れて生き返るミミズだって、物語の中じゃお姫様だ。
残酷だねえ。
ミミズはお姫様でよかったんだろうかねえ。
よくわかんねえや。
わかんないままこの年になるともっとわかんなくなんだよ。
あんただってそうだろ。わかんないから空に帰ったんだろ。
よしてくれよ、ガラじゃないよ。
焼酎でいいんだよ、ミミズには。味なんてわかんねえから。
誰かが泣いてもわかんねえさ。
女教師はその日睡眠薬を多めに飲んだ。明日遅刻してもいいと思っていた。
女教師が実験的に処女を棄てたラブホテルで、中年女性が死んでいた。
女教師が事後に見て何も変わってない自分を嘆息した鏡が、中年女性を看取った。
少女が映画に涙していた。
少年が雲の上を飛び回っていた。
お釈迦様の手のひらを飛び回っていた。
翌日、女教師は生まれて初めて教え子を殴った。
きれいじゃないことを教えるのが教育だと、やっと気づいた。
きれいってどんなんだろう。
物語の裏側はどうなってるんだろう。
劇場って幽霊がよく出るらしいよ。
あんだけ人集まんだもん。わかる気がする。
霊が寄って来るんじゃなくて、人が霊のいるところに集まるんじゃないかな。
わたしガキには人気あんのね。なんでだろう、って考えるわけだ。で、ある時ふとひらめいたのね。
わたし人殺しだからガキが寄って来るんじゃないか、って。
ガキってうんことか好きじゃん。そのたぐいじゃないか、って。
……内緒だよ?
冗談でもいいよ。妄想でもいい。なんでもいいや。
でもみんな言うじゃん。わたしみたいなのが先生やってるって信じらんない、とか。
人殺しだからこんなことやってるんだよね。こんなこと澄ました顔でできる。
意外? どっちが? どっちでもいいけどね。
内緒だよ。冗談だよ。妄想だよ。
なんでもいいんだけどね。
酔ってないよお。大丈夫。……でもあれよ、こんなこと話せるのあんただからなんだよ。
あんたは彼じゃないから。
少年は雲の上を走り回っていた。
そのつま先に落とし穴があることも知らず。
少女はどうすればいいのかわからなかった。
雲の下は雨が降っていた。
雨が土を流していた。
少女の体から白い小石が浮き出ていた。
小石が地面に埋もれていく。
一心不乱に埋めている。
二度と地表に出て来れなくさせようとしている。
少女が紙飛行機を折っている。
紙には彼女の書いた物語が綴られている。
少女はそれを飛ばせなかった。
自分は空に戻れないことを知っていたから。
僕はあなたじゃない。
少年が吐き捨てる。
僕は誰かじゃない。
言葉を踏み潰す。
あたしは悪くない。
少女が吐き捨てる。
あたしは嘘つきじゃない。
言葉を折り畳む。
少年の愛した女教師は殺された。
少年の手で殺された。
殺された女教師は何事もなかったかのように新しい生徒たちを愛していた。
僕はあなたじゃない。
僕は誰かじゃない。
少年は女教師の遺骨を埋めている。
少年の呪いはどこにも届かず空に蒸発する。
もし少女が物語を空に帰していたら、女教師は新しい生徒の誰かを殺したかもしれない。
あなたは彼じゃない。
物語のヒロインはそう吐き捨てる。
少女は物語の存在すら忘れて映画を見入っていた。
きれいに生きるってどんなんだろうねえ。
よくわかんねえや。
教えてもらったきれいならわかるのに、きれいと思えない。
物語を生きれば、きれいとまでは言われなくても、唾吐かれなくて済んだかもねえ。
あたしの子供は空に帰しちまったよ。
マリア様と逆だわな。
干からびたミミズのように生きてきたんだよ。
湿気を求めて這いずり回ってさ。
泥水だろうがションベンだろうが関係ないさ、ミミズなんだもん。
潤いのある暮らしって奴だ。
物なんて言い様だからねえ。
ションベンに塗れて生き返るミミズだって、物語の中じゃお姫様だ。
残酷だねえ。
ミミズはお姫様でよかったんだろうかねえ。
よくわかんねえや。
わかんないままこの年になるともっとわかんなくなんだよ。
あんただってそうだろ。わかんないから空に帰ったんだろ。
よしてくれよ、ガラじゃないよ。
焼酎でいいんだよ、ミミズには。味なんてわかんねえから。
誰かが泣いてもわかんねえさ。
女教師はその日睡眠薬を多めに飲んだ。明日遅刻してもいいと思っていた。
女教師が実験的に処女を棄てたラブホテルで、中年女性が死んでいた。
女教師が事後に見て何も変わってない自分を嘆息した鏡が、中年女性を看取った。
少女が映画に涙していた。
少年が雲の上を飛び回っていた。
お釈迦様の手のひらを飛び回っていた。
翌日、女教師は生まれて初めて教え子を殴った。
きれいじゃないことを教えるのが教育だと、やっと気づいた。
きれいってどんなんだろう。
物語の裏側はどうなってるんだろう。
劇場って幽霊がよく出るらしいよ。
あんだけ人集まんだもん。わかる気がする。
霊が寄って来るんじゃなくて、人が霊のいるところに集まるんじゃないかな。
わたしガキには人気あんのね。なんでだろう、って考えるわけだ。で、ある時ふとひらめいたのね。
わたし人殺しだからガキが寄って来るんじゃないか、って。
ガキってうんことか好きじゃん。そのたぐいじゃないか、って。
……内緒だよ?
冗談でもいいよ。妄想でもいい。なんでもいいや。
でもみんな言うじゃん。わたしみたいなのが先生やってるって信じらんない、とか。
人殺しだからこんなことやってるんだよね。こんなこと澄ました顔でできる。
意外? どっちが? どっちでもいいけどね。
内緒だよ。冗談だよ。妄想だよ。
なんでもいいんだけどね。
酔ってないよお。大丈夫。……でもあれよ、こんなこと話せるのあんただからなんだよ。
あんたは彼じゃないから。
少年は雲の上を走り回っていた。
そのつま先に落とし穴があることも知らず。
少女はどうすればいいのかわからなかった。
雲の下は雨が降っていた。
雨が土を流していた。
少女の体から白い小石が浮き出ていた。