嘘ばっかり
2009/03/11/Wed
眠りは嘘をつく。
戻りたくない場所に連れ戻す。
真夜中の公園にたたずんでいる。
嘘だとわかった時の生体反応がぶり返す。
ブランコが揺れている。
誰も乗ってないのに揺れている。
嘘のブランコ。
月がしてやったりな顔をしている。
誰も来ない。来ない誰かを待っている。来ればその人は違う。
行き場もなくブランコが揺れている。
神経は体の中で完結していない。いたるところに延長している。蜘蛛の巣に囚われた蛾のよう。
ポケットに写真が入っている。あの人の写真が入っている。わたしはあの人を待っている。だけど来たらあの人であっても違う。
月がしてやったりな顔をしている。
植え込みの下で虫が共食いをしている。だからブランコは揺れている。誰も乗っていないのに。
嘘ばっかり。
「嘘ばっかり」
声に出す。
誰も聞いていないから誰かが聞いていると思う。
「僕だよ」
嘘。
「よく見てごらん。写真と僕は同じじゃないか」
違う。
風のゆらめきや日光の乱反射と繋がっていない。
写真のこの人は世界全てと繋がっている。
写真のこの人は蜘蛛だ。
あなたは違う。あなたの糸は夜に溶けている。どこにも繋がっていない。
「それは君だろう」
そうかもしれない。だからと言ってこの写真の人とあなたが同じ人だという理屈にはならない。
「何故そんなことを言うんだい? 君のために来てあげたのに」
嘘。
わたしのためなんかじゃない。自分のためでしょ? あなたが来ようと思ったから来たんでしょ? わたしのためとか言い訳でしょ?
あなたはわたしに否定されることしかできない。
わたしという蛾を捕らえることができない。
だからあなたじゃない。
わたしが待っているのはあなたじゃない。
外灯がおもちゃのバケツを照らしている。月の使者がそれを拾い上げているみたいだった。
きっとあの中には野良猫の心臓が入っている。入ってなかったら嘘だ。月までわたしに嘘をつくのだろうか。
昨日はいた浮浪者がいない。ペニスを露出させていた浮浪者。
月の下では誰もが蜘蛛の餌だ。
嘘つきはみんな蜘蛛に食べられる。
わたしも。
食べられるため夜の公園にやって来る。
誰でもない蜘蛛に食べられるため。
ブランコがしてやったりと笑っている。
あっちへふらふらこっちへふらふら。
ブランコは固定されちゃブランコじゃありません。
いつもふらふら、ふらふら。
だけどどこにへいけません。
ある日突然いなくなったらブランコじゃありません。
ブランコはただ揺れるだけ。
嘘に揺らされいつもふらふら、ふらふら。
だけどどこへもいけません。
嘘でもいいんです。
揺れるからブランコなのですから。
昼の嘘で前に揺らされ夜の嘘で後ろに揺らされ。
いつもふらふら、ふらふら。
あのバケツ、いつか拾ってもらえるのでしょうか。
バケツは揺れませんからね。嘘に動じない。
空っぽなら拾ってもらえたでしょうに。
空っぽじゃないからバケツじゃないのです。空っぽじゃないから拾ってくれない。
夜の公園とはそういうところです。
野良猫の心臓がとても美しく映える場所です。
血まみれの肉塊が芸術作品に変わる場所です。
だからね、夜の方が少しだけ好きなんです。
昼も夜も嘘だらけだけど、夜は嘘の下の本当が透けて見えるから。
夜だから見えるんですよ。
バケツの中身が。
夜はあそこから湧いて来るのです。
空っぽなところから湧いて来るのです。
だけどブランコは昼間と変わらずただ揺れるだけです。
その嘘にふらふら、この嘘にふらふら。
戻りたくない場所に連れ戻す。
真夜中の公園にたたずんでいる。
嘘だとわかった時の生体反応がぶり返す。
ブランコが揺れている。
誰も乗ってないのに揺れている。
嘘のブランコ。
月がしてやったりな顔をしている。
誰も来ない。来ない誰かを待っている。来ればその人は違う。
行き場もなくブランコが揺れている。
神経は体の中で完結していない。いたるところに延長している。蜘蛛の巣に囚われた蛾のよう。
ポケットに写真が入っている。あの人の写真が入っている。わたしはあの人を待っている。だけど来たらあの人であっても違う。
月がしてやったりな顔をしている。
植え込みの下で虫が共食いをしている。だからブランコは揺れている。誰も乗っていないのに。
嘘ばっかり。
「嘘ばっかり」
声に出す。
誰も聞いていないから誰かが聞いていると思う。
「僕だよ」
嘘。
「よく見てごらん。写真と僕は同じじゃないか」
違う。
風のゆらめきや日光の乱反射と繋がっていない。
写真のこの人は世界全てと繋がっている。
写真のこの人は蜘蛛だ。
あなたは違う。あなたの糸は夜に溶けている。どこにも繋がっていない。
「それは君だろう」
そうかもしれない。だからと言ってこの写真の人とあなたが同じ人だという理屈にはならない。
「何故そんなことを言うんだい? 君のために来てあげたのに」
嘘。
わたしのためなんかじゃない。自分のためでしょ? あなたが来ようと思ったから来たんでしょ? わたしのためとか言い訳でしょ?
あなたはわたしに否定されることしかできない。
わたしという蛾を捕らえることができない。
だからあなたじゃない。
わたしが待っているのはあなたじゃない。
外灯がおもちゃのバケツを照らしている。月の使者がそれを拾い上げているみたいだった。
きっとあの中には野良猫の心臓が入っている。入ってなかったら嘘だ。月までわたしに嘘をつくのだろうか。
昨日はいた浮浪者がいない。ペニスを露出させていた浮浪者。
月の下では誰もが蜘蛛の餌だ。
嘘つきはみんな蜘蛛に食べられる。
わたしも。
食べられるため夜の公園にやって来る。
誰でもない蜘蛛に食べられるため。
ブランコがしてやったりと笑っている。
あっちへふらふらこっちへふらふら。
ブランコは固定されちゃブランコじゃありません。
いつもふらふら、ふらふら。
だけどどこにへいけません。
ある日突然いなくなったらブランコじゃありません。
ブランコはただ揺れるだけ。
嘘に揺らされいつもふらふら、ふらふら。
だけどどこへもいけません。
嘘でもいいんです。
揺れるからブランコなのですから。
昼の嘘で前に揺らされ夜の嘘で後ろに揺らされ。
いつもふらふら、ふらふら。
あのバケツ、いつか拾ってもらえるのでしょうか。
バケツは揺れませんからね。嘘に動じない。
空っぽなら拾ってもらえたでしょうに。
空っぽじゃないからバケツじゃないのです。空っぽじゃないから拾ってくれない。
夜の公園とはそういうところです。
野良猫の心臓がとても美しく映える場所です。
血まみれの肉塊が芸術作品に変わる場所です。
だからね、夜の方が少しだけ好きなんです。
昼も夜も嘘だらけだけど、夜は嘘の下の本当が透けて見えるから。
夜だから見えるんですよ。
バケツの中身が。
夜はあそこから湧いて来るのです。
空っぽなところから湧いて来るのです。
だけどブランコは昼間と変わらずただ揺れるだけです。
その嘘にふらふら、この嘘にふらふら。