『Pyun Pyun』
2009/05/26/Tue
病院からの帰り、駅までの道のりを少し遠回りした。
そこそこ高いビルに目をつけ、中に入った。
エレベーターで最上階に行った。
安っぽい水色のパーテーションで仕切られているフロアだった。
屋上に行きたかったのだが、パーテーションの迷路で迷ってしまった。
トイレから緑っぽい汚らしい色のシャツを着た初老の男性が出てきたので、足早にエレベーターの前に行った。声をかけられたら「階間違えました」と言おうと思った。声はかけられなかった。
到着したエレベーターに乗って、一階に下りた。
わたしは懲りずに次のビルを探した。
屋上へ行きやすそうなビル。外からじゃわからないけれど、外階段があるビルなどは行きやすそうに思える。
外廊下になっているビルがあった。
とりあえず中に入り、最上階を押した。十五階だった。
通路は外廊下の一つしかないので迷うことはなかったが、非常階段へのドアの取っ手にプラスチックのケースが被せてあった。防犯機能がついているらしい。わたしは屋上に行くのを断念した。
しかし外廊下なので、手摺から身を乗り出せば地上が見渡せる。
手摺はコンクリート製で、十センチほどの幅があった。
つきあたりに工具箱のようなケースがあった。それを踏み台にして、手摺の上に乗ろうと思った。
両足を乗せると、手摺の上面が若干外側に下がって傾斜しているのがわかった。いや、実際にそうなっているのではなく、わたしが地上に吸い込まれそうになっているだけかもしれなかった。
今この階の住人が部屋から出てきたら、ドラマみたいにわたしを取り押さえたりするんだろうか。別に飛び降りようとしているわけではないのに。結果飛び降りることになったとしても、この時のわたしは飛び降りようと考えてなかった。ただなんとなく、意味もなく、そうしたかっただけ。
内臓がきゅうっと絞られる。体の中心に軸があるかのようだ。そうか、これがファルスになるはずのものかもしれない。
地上の世界がおもちゃみたいだ。
あまり現実味がない。
こんなところに立っている自分も。
おもちゃの世界がわたしをからかっている。
わたしに好意を寄せている。
多分、そこに立っていたのは十秒くらいだろう。下りる時、工具箱が傾き大きな音がして「やばい」と思ったが、住人は出てこなかった。
わたしはそそくさとエレベーターに乗った。
帰りの電車の中、「おもしろい遊びを見つけた」とでも思ったのか、顔がニヤニヤしっぱなしだった。
病院へ行く前にやっとけば医者はどう思うのだろう。「調子いいみたいですね」などと言うのだろうか。
ニヤニヤが止まらなかった。
風はきまぐれ 口がうまいと知ってるわ
ピエロみたいにふざけるだけよ 本気じゃない
だけどこんな日には風がなぜか優しく見えて
素直に腕を取ってしまう
もう少しそばにいて
Pyun Pyun
秋風 耳にささやく
Pyun Pyun
スキダヨ ボクノオヒサマ
Pyun Pyun
おどけて くるくる回るから
Pyun Pyun
わたしは泣いたり笑ったり
そこそこ高いビルに目をつけ、中に入った。
エレベーターで最上階に行った。
安っぽい水色のパーテーションで仕切られているフロアだった。
屋上に行きたかったのだが、パーテーションの迷路で迷ってしまった。
トイレから緑っぽい汚らしい色のシャツを着た初老の男性が出てきたので、足早にエレベーターの前に行った。声をかけられたら「階間違えました」と言おうと思った。声はかけられなかった。
到着したエレベーターに乗って、一階に下りた。
わたしは懲りずに次のビルを探した。
屋上へ行きやすそうなビル。外からじゃわからないけれど、外階段があるビルなどは行きやすそうに思える。
外廊下になっているビルがあった。
とりあえず中に入り、最上階を押した。十五階だった。
通路は外廊下の一つしかないので迷うことはなかったが、非常階段へのドアの取っ手にプラスチックのケースが被せてあった。防犯機能がついているらしい。わたしは屋上に行くのを断念した。
しかし外廊下なので、手摺から身を乗り出せば地上が見渡せる。
手摺はコンクリート製で、十センチほどの幅があった。
つきあたりに工具箱のようなケースがあった。それを踏み台にして、手摺の上に乗ろうと思った。
両足を乗せると、手摺の上面が若干外側に下がって傾斜しているのがわかった。いや、実際にそうなっているのではなく、わたしが地上に吸い込まれそうになっているだけかもしれなかった。
今この階の住人が部屋から出てきたら、ドラマみたいにわたしを取り押さえたりするんだろうか。別に飛び降りようとしているわけではないのに。結果飛び降りることになったとしても、この時のわたしは飛び降りようと考えてなかった。ただなんとなく、意味もなく、そうしたかっただけ。
内臓がきゅうっと絞られる。体の中心に軸があるかのようだ。そうか、これがファルスになるはずのものかもしれない。
地上の世界がおもちゃみたいだ。
あまり現実味がない。
こんなところに立っている自分も。
おもちゃの世界がわたしをからかっている。
わたしに好意を寄せている。
多分、そこに立っていたのは十秒くらいだろう。下りる時、工具箱が傾き大きな音がして「やばい」と思ったが、住人は出てこなかった。
わたしはそそくさとエレベーターに乗った。
帰りの電車の中、「おもしろい遊びを見つけた」とでも思ったのか、顔がニヤニヤしっぱなしだった。
病院へ行く前にやっとけば医者はどう思うのだろう。「調子いいみたいですね」などと言うのだろうか。
ニヤニヤが止まらなかった。
風はきまぐれ 口がうまいと知ってるわ
ピエロみたいにふざけるだけよ 本気じゃない
だけどこんな日には風がなぜか優しく見えて
素直に腕を取ってしまう
もう少しそばにいて
Pyun Pyun
秋風 耳にささやく
Pyun Pyun
スキダヨ ボクノオヒサマ
Pyun Pyun
おどけて くるくる回るから
Pyun Pyun
わたしは泣いたり笑ったり