奇妙な研究者
2009/11/06/Fri
こういう神話があった。
ある女神がいた。ある時女神は他の神に裏切られ、辱めを受ける。女神は我を忘れて自分の子供たちを殺した。
女神を裏切るのは夫の神であったり、その土地の神話体系における最高神だったりするが、大体同じような神話が各地にあった。
女神の性格も、非常に大人しかったとするものや、慈悲深い神だったとするものもあり、さまざまだ。中にはひょうきんな踊りで観客を笑わせるような舞踏劇もある。しかしその劇のあらすじも子殺しに帰結していた。
一部の学者は、人格神に限らず動物神も含めて考えれば、子殺しというあらすじがあてはまる神話もあると言う。たとえば、他の神を怒りを買い、人間という他の種を生まされてしまった狼の精霊の話。彼女は今でもその恨みを持ち続けており、自然の力を操り山火事などを起こし、人間たちを殺しているのだという。
ところで、あらすじが全く逆の構造をしている神話も多いんだ。簡単に言えば、子殺しを犯した女神を正義の神が討伐するというもの。殺されそうになった子供の神がやがて母神に復讐を果たすというもの。
しかしこれらは後付の物語だと考えられる。なぜなら、先の狼の神の話では、彼女はある英雄に討伐されるのだが、その英雄は他文化の特徴を備えていた。つまり、その英雄を崇拝する文化が混淆したことにより、邪神は討伐されなければならなかった、というわけだ。
僕はこれらの女神を「子殺しの神」と名づけ、研究している。
冒険者よ、僕はこんなことも思うんだ。もし、全ての神話における「子殺しの神」が、あまたの英雄たちにより、全員討伐されたなら、戦争など二度と起きないんじゃないか、真の平和の国ができあがるんじゃないかとね。英雄ってのは正義の神だろ? だから英雄が完全に勝ってしまえば、戦争なんて理不尽なことは起こらなくなるはずだ。
……ま、その時は英雄自身もお払い箱になるんだろうが。
でも僕はこんな風にも思う。「子殺しの神」たちは絶滅しないと。なぜなら、どの神話の彼女たちも非常に魅力的に描かれているからだ。生き生きとしている。型通りな性格であることが多い英雄たちなんかよりも、躍動感がある。肉感的である。
これらのことから、僕は戦争はなくならないと思うんだ。「子殺しの神」たちは決して絶滅しないから。
ああ、ごめんよ。長話しちゃったね。
ええと、君は僕の仕事を手伝いに来てくれたんだっけ。ありがたい。やってほしいことは山ほどある。
こんな大量のクエストをこなしてくれるのは、君のようなタフな冒険者くらいのものだ。
じゃあ、何からお願いしようか……。
ある女神がいた。ある時女神は他の神に裏切られ、辱めを受ける。女神は我を忘れて自分の子供たちを殺した。
女神を裏切るのは夫の神であったり、その土地の神話体系における最高神だったりするが、大体同じような神話が各地にあった。
女神の性格も、非常に大人しかったとするものや、慈悲深い神だったとするものもあり、さまざまだ。中にはひょうきんな踊りで観客を笑わせるような舞踏劇もある。しかしその劇のあらすじも子殺しに帰結していた。
一部の学者は、人格神に限らず動物神も含めて考えれば、子殺しというあらすじがあてはまる神話もあると言う。たとえば、他の神を怒りを買い、人間という他の種を生まされてしまった狼の精霊の話。彼女は今でもその恨みを持ち続けており、自然の力を操り山火事などを起こし、人間たちを殺しているのだという。
ところで、あらすじが全く逆の構造をしている神話も多いんだ。簡単に言えば、子殺しを犯した女神を正義の神が討伐するというもの。殺されそうになった子供の神がやがて母神に復讐を果たすというもの。
しかしこれらは後付の物語だと考えられる。なぜなら、先の狼の神の話では、彼女はある英雄に討伐されるのだが、その英雄は他文化の特徴を備えていた。つまり、その英雄を崇拝する文化が混淆したことにより、邪神は討伐されなければならなかった、というわけだ。
僕はこれらの女神を「子殺しの神」と名づけ、研究している。
冒険者よ、僕はこんなことも思うんだ。もし、全ての神話における「子殺しの神」が、あまたの英雄たちにより、全員討伐されたなら、戦争など二度と起きないんじゃないか、真の平和の国ができあがるんじゃないかとね。英雄ってのは正義の神だろ? だから英雄が完全に勝ってしまえば、戦争なんて理不尽なことは起こらなくなるはずだ。
……ま、その時は英雄自身もお払い箱になるんだろうが。
でも僕はこんな風にも思う。「子殺しの神」たちは絶滅しないと。なぜなら、どの神話の彼女たちも非常に魅力的に描かれているからだ。生き生きとしている。型通りな性格であることが多い英雄たちなんかよりも、躍動感がある。肉感的である。
これらのことから、僕は戦争はなくならないと思うんだ。「子殺しの神」たちは決して絶滅しないから。
ああ、ごめんよ。長話しちゃったね。
ええと、君は僕の仕事を手伝いに来てくれたんだっけ。ありがたい。やってほしいことは山ほどある。
こんな大量のクエストをこなしてくれるのは、君のようなタフな冒険者くらいのものだ。
じゃあ、何からお願いしようか……。